最近、ジョブ型雇用への移行を発表する日本企業が増えてきました。「成果主義が厳しくなるのでは?」「今の仕事は評価されるのか?」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
外資系企業で人事の仕事をしている私から見ると、ジョブ型への不安の多くは「仕組みがよくわからない」ことから来ているように思います。特に、ポジションとグレードの関係性を理解していないと、昇格や昇給の仕組みが見えてこないんですよね。
今回は、ジョブ型雇用における昇給・昇格の仕組みを、できるだけわかりやすく解説します。製造業での具体例も交えながら、「なんとなく怖い」を「仕組みがわかれば対処できる」に変えていきましょう。
ジョブ型とは何か?
まず基本から整理しましょう。ジョブ型雇用とは、職務(ジョブ)に対して人を割り当てる雇用システムです。
従来の日本企業で主流だったメンバーシップ型は、「人」を採用してから仕事を割り振る方式でした。新卒一括採用で「総合職」として入社し、配属や異動を繰り返しながらキャリアを築いていく。多くの方にとって馴染み深いスタイルですよね。
一方、ジョブ型では「仕事」が先にあります。組織図に「品質保証課長」というポジションがあり、そのポジションに必要な職務内容を定義した「職務記述書(Job Description)」を作成し、それに適した人をアサインする。順番が逆なんですよね。
ここで重要なのは、ジョブ型=成果主義ではないということ。ジョブ型はあくまで「どんな仕事をするか」を明確にする仕組みであって、成果主義とは別の概念です。ただ、職務が明確になることで成果も測りやすくなるため、セットで語られることが多いんですよね。
用語の整理:ポジションとグレードの関係性
ジョブ型を理解する上で、絶対に押さえておきたいのが「ポジション」と「グレード」の違いです。外資系企業で働いている人でも、この2つがごちゃごちゃになっている人は意外と多いんです。
ポジションとは
ポジションは、仕事をする「椅子」のことです。組織図上に定義された役割で、定員があります。
例えば製造業なら:
- 生産管理課長(1名)
- 品質保証係長(2名)
- 製造班長(5名)
これらがポジションです。組織図に描かれている箱一つ一つが、ポジションだと思ってください。
グレードとは
グレードは「等級」のことです。職務の責任や難易度に応じて、Grade 1からGrade 12のように階層が分かれています(会社によって段階数は異なります)。
そして重要なのが、グレードごとに給与バンドが設定されているということ。例えばGrade 8なら年収700万円〜900万円、Grade 9なら800万円〜1,100万円、といった具合です。
ポジショングレードとパーソナルグレード
ここからが少しややこしいのですが、グレードには2種類あります。
ポジショングレードは、ポジションに紐づくグレードです。「品質保証課長というポジションはGrade 9相当の職責である」というように、ポジションを設計する時点で決まっています。
パーソナルグレードは、個人に紐づくグレードです。その人の職責やパフォーマンスによって変動します。
例を挙げましょう。
品質保証課長(ポジショングレード:Grade 9)のポジションに、係長レベルのグレード(パーソナルグレード:Grade 7)を持つAさんがアサインされたとします。
この場合、すぐにAさんのパーソナルグレードをGrade 9に引き上げることもあれば、「まずは様子を見よう」ということで当面はGrade 7のまま課長職を任せることもあります。後者の場合、半年後や1年後の評価を経て、正式にGrade 9へ昇格する、という流れになるんですね。
昇給・昇格の仕組み
ここまでの理解を前提に、昇給と昇格の仕組みを見ていきましょう。
スタッフ職は職務給と職能給のブレンド
実は、外資系企業でもスタッフ職(非管理職)は、職務給と職能給を組み合わせた運用をしているケースが多いんです。
製造現場のオペレーターや、ホワイトカラーの一般社員レベルであれば、ポジションの空きを厳密に問わず、パフォーマンス次第でグレードが上がることがあります。「今年は成果を出したからGrade 5からGrade 6へ」といった昇格ですね。
つまり、スタッフ職の段階では、メンバーシップ型的な職能給の要素が残っているんです。これは、業務の幅が広く柔軟な対応が求められるスタッフ層では、厳密なジョブ型を適用しにくいという現実的な理由があります。
管理職以上はポジション依存が強い
一方、班長以上、係長以上、そして課長以上の管理職については、組織図上のポジション数が厳密に決められています。
なぜなら、管理職ポジションは「何人のメンバーを率いるか」「どの範囲の予算責任を持つか」が明確に定義されているからです。組織図に「製造班長5名」と書いてあったら、どんなに優秀な人がいても6人目の班長は生まれません。
つまり、管理職への昇格には「ポジションの空き」が必須なんです。これがジョブ型の大きな特徴であり、多くの方が不安を感じるポイントでもあります。
ジョブ型に不安を感じる中堅社員の疑問に答える
ここからは、よくある質問に答えていきます。
Q1. 今の仕事ってジョブ型でどう評価されるの?
ジョブ型では、職務記述書(Job Description)に書かれた職責で判断されます。
例えば、あなたが生産技術の担当者だとしましょう。職務記述書には「製造ラインの改善提案と実行」「新規設備導入時の技術検証」などが書かれているはずです。評価される のは、この職務記述書に書かれた範囲をどれだけ成果を出して遂行したかです。
逆に言えば、職務記述書に定義されていない仕事をどれだけ頑張っても、評価対象外になる可能性があるということです。
「何でも屋」として様々な業務を引き受けてきた方にとっては、これが不安材料になるかもしれません。ただ、職務記述書の範囲は定期的に見直されますし、組織の状況に応じて柔軟に更新されるものです。過度に心配する必要はないでしょう。
Q2. グレードが上がっても給与が上がらないことってある?
あります。
先ほど説明したように、グレードごとに給与バンドが設定されています。例えばGrade 7で年収650万円の人がGrade 8に昇格したとしましょう。Grade 8の給与バンドが600万円〜850万円だった場合、すでに650万円はバンド内に収まっているので、昇格しても給与は据え置きということがあり得るんです。
もちろん、多くの企業では昇格時に一定の昇給を行いますが、グレードが上がる=必ず給与が大きく上がる、ではないことは知っておいた方がいいでしょう。
特に、給与バンドの上限近くまで到達している場合、それ以上の昇給を望むなら、次のグレードへの昇格が必要になります。これが「ポジションの空き」の問題と直結してくるわけです。
Q3. 昇格のためには何が必要?
昇格の評価基準として、多くの外資系企業では「ヘイのガイドチャートプロファイル法」という手法、あるいはそれに準じた手法を参考にしています。これは職務を数値化して評価する方法で、3つのカテゴリで構成されています。
1. 知識・経験 その職務に必要な専門知識や経験の深さです。製造業なら、品質管理の専門知識、特定の製造プロセスへの精通度などが該当します。
2. 問題解決 直面する課題の複雑さと、それを解決する能力です。定型的な問題を扱うのか、前例のない課題に取り組むのか、という違いですね。
3. 達成責任 その職務が組織に与える影響の大きさです。担当する予算規模、意思決定の範囲、率いるチームの規模などが評価されます。
つまり、昇格を目指すなら知識・経験を増やす、難しい課題を解決する、より上のポジションで責任を負うことが重要になります。
ただし繰り返しになりますが、これらを満たしてもポジションの空きがなければ昇格はできません。これがジョブ型の現実です。
ジョブ型で生きるための視点
ここまで読んで、「やっぱりジョブ型は厳しそうだ」と感じた方もいるかもしれません。
でも、考え方を変えてみてください。ジョブ型は「何が評価されるか」が明確なシステムです。職務記述書を見れば自分の仕事が定義されています。
メンバーシップ型の「会社への貢献」「チームワーク」といった抽象的な評価基準に比べて、やるべきことが見えやすいとも言えるんです。
もちろん、ポジションの空き待ちという制約はあります。でも、それは「運」だけの問題ではありません。組織の動きを見て、どのポジションが空きそうか、そのポジションに求められる要件は何かを戦略的に考えることができます。
ジョブ型は「制度」である以上に「戦略」です。自分の職務を理解し、グレードの評価基準を把握し、ポジションの動きを見極める。この視点を持つことが、ジョブ型時代のキャリアの鍵になると私は考えています。
漠然とした不安は、仕組みを理解することで和らぎます。
この記事が、その一助になれば幸いです。
